「老後不安」を減らす生き方……「老いを受け入れる」秘策

日米の高齢者医療を知る老年科医・大蔵暢さんに学ぶ①

「老い」は誰にでも訪れます。これからの人生をより長く、より幸せに生きるにはどうしたらいいのか。日米の高齢者医療を知る老年科医・大蔵暢(とおる)さんに「『老い』をネガティブに考えない!『老年』を受け入れるコツ」についてお伺いしました。

やまと在宅診療所大崎院長 大蔵暢さん

[プロフィール]
米国内科・老年医学専門医、日本内科学会認定医。聖路加国際病院を経て渡米し、高齢者医療を学ぶ。現在は宮城県大崎市で高齢者医療に携わる。
【病院サイト】https://osaki.yamatoclinic.org/about/


できないことよりも
今できることを
楽しもう

高齢者医療に携わっていて不思議に思うのは、日本人が「老い」を必要以上にネガティブに考えていることです。私が老年医学を学んだアメリカでは、老いは比較的ポジティブにとらえられていました。欧米に比べ、日本ではあまりにも「若さ」に価値が置かれすぎているのではないでしょうか。

年をとるごとに体力や気力は衰え、若い頃にはなんでもなかったことができなくなっていきます。しかし20歳の頃は、今と同じように深く物事を考え、味わうことはできなかったはずです。

老いるにつれ失うものもあれば、老いたからこそ獲得できる「知恵」もあります。老いるとは、失うことではなく、積み上がること。現実は変わらないけれど、見方をそういうふうに変えるだけで、気持ちはずいぶんと楽になるのではないかと思います。

できなくなってしまったことを嘆くのではなく、今できることを楽しめれば、老いは不幸ではありません。


高齢者の病気は
いくつもの要因が
関係している

これまでは見た目や運動能力の低下など「身体的な老い」が注目されがちでした。しかし、現実はもう少し複雑です。身体的な老いに加えて「持病などの疾病」、「精神的ストレス」など、いくつかの要因が複雑に絡み合い、高齢者特有の症状が現われます。

なかでもとくに問題となるのが、体にも悪影響を与える精神的ストレスです。「老年期うつ」は最も多い健康問題のひとつで、毎日の幸福感を減少させ、認知機能を低下させます。退職や配偶者との死別など原因はさまざまですが、高齢者が死への不安や孤独の寂しさを表しにくい、日本の文化的な背景も影響していると考えられます。

最近では副作用の少ない薬が出ていますので、高齢者でも薬物治療での改善が期待できます。日本の患者さんはうつ病の診断をされることを嫌いますが、今から高齢者によくある疾病であることを知っておき、自然なことだと受け入れていただけるといいですね。

ただし高齢になると、薬ののみ合わせによる相互作用や副作用が強く出てしまうことも。複数の病気を抱えて別々のクリニックに通い、多くの薬を服用していると、慢性的なめまいなどの高齢者特有の症状や不調が表れることがあるので、注意が必要です。

高齢になって多くの薬を服用し続けるのは大変です。この問題はいろいろなことを相談できるかかりつけ医を持つことで予防できますが、身近に最適な医師がいないときは、まずは薬剤師さんに相談してはいかがでしょうか。


ポジティブに
老いと向き合おう

高齢になれば、誰でも転びやすくなるもの。みなさん、杖を「老いの象徴」と考えていて使うのを敬遠しがちですが、おしゃれな杖でシャキッと歩いたほうが、杖を持たずにフラフラしているよりもかっこいいです。転ばないように、老いを見せないように外出を控えるより、シルバーカーを使ってでも散歩したほうが健康にもいい。

老いたらいつかは転ぶようになる。それを受け入れることも大切なことだと思います。そのうえで、自由と安全のバランスをとるべきです。

ポジティブに老いた方に、今年105歳で亡くなった医師の日野原重明さんがいます。100歳を過ぎても、診察や講演、執筆活動に精力的に取り組んでいらっしゃったのは、社会から求められ、がんばっていた部分もおありだったと思います。日野原先生はある意味“スーパー高齢者”でマネは難しいですが、この「貢献感」を持つこと自体は、私たちにとっても重要です。

アドラー心理学では「幸福とは貢献感である」と位置づけていますが、これは自己満足でもかまいません。私の患者さんに90代で重度の認知症の女性がいますが、今も家族のために食器を洗います。きちんと洗えていないし、拭けていないのですが、でもそれでいい。本人はそこに自分の存在価値を見いだせているんだと思います。もちろん、周囲の理解も不可欠です。

身近な人の「老い」や「死」に向き合い、学ぶことも大切です。それを参考に、自分がどこでどんな最期を迎えたいかを、周りに伝えておきましょう。

とくにご自身のパーソナルヒストリーをまとめておくと、老後の生活に役立ちます。私が以前働いていた老人ホームでも、新しい高齢者さんが入居すると必ず聞き取りをしていました。

パーソナルヒストリーには人生観や死生観が現われます。たとえば命にかかわる医療現場での決断にも役立ちますし、認知症患者さんの行動を読み取るヒントになることもあります。

漫然と老後を不安に思うのではなく、日本のような平和で健康長寿な社会で「老いることができる幸せ」をしっかり享受してほしいと思います。


*雑誌「NHKガッテン!」臨時増刊号(2017年11月発行)より


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