「老後不安」を減らす生き方……「食をいつまでも楽しむ」秘策

テレビの料理番組でも人気!料理研究家・鈴木登紀子さんに学ぶ②

日本料理研究家 鈴木登紀子さん(93歳)

[プロフィール]
1924年、青森県八戸市生まれ。自宅で始めた料理教室をきっかけに、46歳で料理研究家に。40年以上にわたってNHK「今日の料理」に出演し、“ばぁば”の愛称で親しまれている。『のんきに生きる』(幻冬舎)など、著書多数。


「楽しい雰囲気」を歳をとるほど心がけて

以前からお会いしたかった“ばぁば”の取材は、月に10日開いているという料理教室の直後でした。一仕事終えてからのことでしたので「お疲れかしら……」と、勝手な心配をしながら訪れた私たち取材班を、鈴木先生は元気いっぱい出迎えてくださいました。

チャーミングでユーモラスな話し口はテレビのとおりです。
「みなさまからよく『ばぁばはユーモアがある』と言われますが、自分ではよくわからなくて。自然とこうなってしまうの(笑)。人様への気遣いから、意識してほがらかにふるまっている部分もありますよ。小さい頃、母に教わった人間関係の基本が染みついているからかもしれません。それに、楽しい雰囲気を心がけるのは、年を重ねた人間のマナーだと思うのよ。縁あって一緒に時間を共有している方には、楽しい気分でいてほしいですよね。そんなとき、おいしい料理が役立つのよ。おいしいものは場を楽しくし、人間関係の潤滑油にもなります。一緒に食べている自分も楽しくなるでしょ。だからこそ食は大切だと考えています」
料理教室の生徒さんはもとより、だれからも愛される秘訣はここにあるんだな……と、納得しました。

取材の直前まで行われていた、予約がなかなかとれないと噂の料理教室にも興味深々の私たち。取材に伺ったのが7月だったので、鈴木先生は七夕の織姫と彦星をテーマに料理をされていました。
「季節感を大事にする日本料理は、日本人の体質にかなったものと思っておりますので、それもみなさんにお伝えしたいのよ。季節の素材を使って、そのときの体の調子に合った料理を考えるのは、楽しいし頭も使うから、私はいつまでも元気なのかしらね。それに、うちのお教室は毎月、折敷(おしき/お盆)やお箸置き、器もテーマに合わせて変えているの。料理には器の楽しみもあるわね」

もしも体調がすぐれないようなときの食事にも、役立つと考えていらっしゃるそう。
「具合が悪いときは、きれいにしつらえることで食欲がわいたり、食べやすくなったり、お食事を楽しめるようになると思います。折敷にね、お器はお料理に見合ったものを選んで。好きなものや食べやすいものを、程よくいただくといいわね。味つけは、おいしいおだしと、ほんの少しの塩加減で整えましょう。元気なときと味覚も違いますので、加減をするとよろしいと思います」
たしかに料理の見た目で食欲も味も全然変わりますよね。白い器でもいいそうなので、これはちょっと家でも取り入れてみようと思いました。


昔からの味も今の味も、自分に合わせて取り入れる

鈴木先生が年をとってから好きになったというのが、ワンプレート。以前は抵抗があったと言います。
「昔はあんまり感心しないなって思っていたの。入院食みたいにも見えるでしょ(笑)。でも、いろんなものをちょっとずつ食べるのにぴったりだし、いくつも器を用意する必要がなくて“ばぁば”向きです」
それにお嬢さんが朝食に作ってくれるワンプレートは、普通のものとは全然違うそう。
「彩りがすごくいいし、栄養的に考えられているから、ただの山盛りの一皿にならないの。それを折敷に載せて、私の部屋まで持ってきてくれるので、ひとりでゆっくり食べています。サラダには、見たことない南国の果物や数種類の木の実を使っていたりするから、飽きないし、新しい味を発見できて楽しいわね。おいしい料理って、お味だけじゃないのよ。見た目に美しく、季節を感じさせ、心をこめて丁寧に作っているのが伝わる料理のことだと思います」
じつは二人のお嬢さんは、先生の味を引き継いで、料理の仕事をされています。お話からも、家族をつなぐ料理を毎朝おいしそうに召し上がっている姿が想像できました。

おいしいものに目がない鈴木先生は、全国から選りすぐったものの“お取り寄せ”もしているとか。京都は京華堂のおしるこ、金沢はぶり大根と大根寿司……と、次から次へとおすすめのお取り寄せ情報がポンポン出てきます。うーん、どれもおいしそう。
「いただいたときにおいしかったものは覚えていますが、旅行に行ったときに出会ったものも多いわね。私の出身地・八戸からは、焼干いわし以外に塩うにやラーメン、梅干しなどを送ってもらっています。個包装になった新潟の越後
吉雪の『甘塩サーモン』は、いつも10~20個は冷凍庫に常備しているの。おむすびやお茶漬けにもすぐ役に立ちます。お買いものに出られないときや、何もないときの強い味方になるの。おいしいものが生きがいだから、お取り寄せは止められないわね(笑)」
ほがらかに笑う鈴木先生。なるほど、個包装の鮭は一人暮らしの食事にもぴったりです。魚を一切れだけ焼くのは手間だと感じることもありますし、サイズも大きすぎないので、“充実時間世代”の食事にもふさわしいかもしれません。

たまには便利なお取り寄せで楽しく手間を省きつつ、体の声を聴いて丁寧な食事を続けていらっしゃる鈴木先生。生徒さんにいつも「食べることは生きること、生きるためには食べること」と言っているそうですが、ご自身もそれを実践されていることがよくわかりました。なおかつ、病気があっても丁寧に暮らせば長生きができる可能性があることも。
胃腸の丈夫さには個人差はありますが、自分の食のペースを見つけられれば、“ばぁば”のように90代でも現役で活躍できるのかしら、と話しながら帰った取材班でした。


*文/編集部(2017年11月)


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