退職後は居場所がなくなる……「孤立の不安」解決策

介護予防の大規模調査にかかわる東大教授の飯島勝矢さんに学ぶ①

日本人の平均寿命は伸び続け、100歳以上の高齢者は、2050年に約70万人になるといわれています。そんな「人生100年時代」で、さまざまな「老後不安」を抱えている人も多いのではないでしょうか。高齢者医療の専門家・飯島勝矢さんに、「孤立の不安」を解決する方法を取材しました。

東京大学高齢社会総合研究機構教授 飯島勝矢さん

[プロフィール]
専門は高齢者医療。介護予防に関する大規模調査をもとに、フレイルチェックや介護予防の仕組みの構築・普及に取り組む。


「社会参加」の重要性が
大規模調査で明らかに

日々通う職場があれば、人と会話をしたり、同僚と帰りに一杯、という機会も多いでしょう。でも、リタイア後は環境が激変します。

高齢者医療が専門の飯島勝矢さんは、「退職が高齢者の孤立への入り口になりやすく、要介護にもつながる」と警鐘を鳴らします。

なぜ孤立が要介護を招くのか。それは、「フレイル」という考え方から説明できると飯島さんはいいます。フレイルとは要介護の前段階の状態のことで、身体の衰えだけではありません。足腰や筋力が衰える「身体的フレイル」、認知機能低下などの「心理的・認知的フレイル」に加え、閉じこもりなどの「社会的フレイル」も含めた新しい概念です。じつは、社会とのかかわりが少ない人ほど、このフレイルに陥りやすいことが、わかってきたのです。


その負の連鎖を表したのが右の図。社会とのつながりを失うと生活範囲が狭まり、人と会わなくなります。すると認知機能(こころ)、口腔(こうくう)機能、栄養状態が悪化し、体の衰えにつながるというのです。


「一般には、要介護になるのは体の衰えからであって、介護予防=運動という印象が強いかと思います。たしかに運動は有効です。でも、我々が行った大規模調査から、特別な運動をしていなくても、社会活動を行っている人は、フレイルのリスクが少ない傾向がわかりました」(右のグラフ参照)


このことから飯島さんは、より現実的な介護予防法を提唱します。

「運動が嫌いな人は、必要だとわかっていても続かないもの。一方で、文化的な趣味でも、外に出る機会につながれば身体活動も増えます。たとえば、カラオケが好きなら月1回といわず、週1回、2回と増やせばいい。好きなことは続くので、三日坊主の筋トレなどよりも運動量を増やせるんです」

また、食事の改善にも、社会参加の効用が期待できるといいます。

「趣味の集まりのあと、おしゃべりしながら食事をすれば、新しい食体験もでき、栄養摂取の幅も広がる。楽しい仲間も増やせますよ」

さらに、食事に関しては栄養に加え、歯や咀嚼(そしゃく)力など、口腔機能全体で考える必要性を強調します。

「軟らかい料理を食べ続けていたり、何日も会話をしないと、口の筋肉が衰え、咀嚼力が落ちます。これは『オーラルフレイル』といい、要介護を招く要因に。このような社会参加や口腔機能は、軽視されがちですが、気づかぬ間にフレイルを進めてしまいます」

地域のシニアが活躍する
「フレイルサポーター」

飯島さんが尽力中なのが、筋肉やお口の機能をチェックするプログラムで、社会参加の場にもなっている「フレイルチェック」の普及です。多くの人にフレイルの危険に気づいてもらい、要介護を防ごうというもの。導入する自治体も増加中です。

このフレイルチェックの実働部隊として検査や運営を行うのが、有志が務める「フレイルサポーター」です。そのおひとり、石井龍兒さんに、お話をうかがいました。

「定年後は何か社会貢献をしたいと思っていました。フルタイムではきついけれど、これならできそうだと応募。メンバーで協力しあうのは、やりがいがあり、“ノミニケーション”も楽しいです(笑)」

フレイルチェックを受けた佐藤和三郎さんも、地域活動の大切さを実感したといいます。

「フレイルチェックを受け、問題なしでしたが、社会参加が大切だと聞いて目からウロコ。今後はサポーターに参加するつもりです」


*雑誌「NHKガッテン!」臨時増刊号(2017年11月発行)より


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