この人とこれからやっていける?……「家庭の不安」解決策

「夫源病」提唱者である医師の石蔵文信さんに学ぶ②

大阪大学人間科学研究科附属未来共創センター招へい教授 石蔵文信さん

[プロフィール]
時代に先駆けて、男性更年期外来を開設し、中高年のメンタルケアに取り組む(診察は大阪の眼科いしくらクリニックhttp://gghouse.jp/)。『妻の病気の9割は夫がつくる』など著書多数。 また健康・エコ・災害対策として自転車発電の普及のために日本原始力発電所協会(http://eco-powerplant.com)を設立し活動中である。


「人生100年時代」おすすめの夫婦関係は、軽い家庭内別居!

夫の振る舞いがストレスになり、妻が体調不良になる症状を「夫源病」と名づけ、数年前に大きな反響を呼んだ医師の石蔵文信さん。私たち取材班は、大阪在住の石蔵さんに取材を依頼し、まずは東京のクリニックでの診察後に取材を敢行。その後、大阪のご自宅にまで押しかけ、奥さんにも会ってきました。

雑誌の記事(→石蔵文信さんに学ぶ①)では、夫婦関係を円満に保つための石蔵さんのアドバイスとして、「夫が自立し、自分で家事、とくに料理ができるようになること」「夫婦お互いに、相手にあまり期待しないこと」を紹介しました。

「たとえば、夫婦ふたりがそれぞれ自立し、それぞれ別の趣味をもったり、自宅以外の居場所を作り、好き勝手な毎日を過ごしてもよいでしょう。場合によっては、食事も一緒じゃなくてもいいです。でも、そんな夫婦関係でも、同じ家に一緒に住んで暮らしていれば、どちらかが倒れていたら、さすがにわかりますよね。長い人生、病気になって倒れたり、自分で自分のことができない状況になることもある。そう考えると、夫婦の関係性や、地域とのつながりは、『人生100年時代』といわれる今後は、ますます疎かにはできないでしょうね」

でもそう考えると、パートナーとしっかり仲良くなっておいたほうが、やっぱりよいのでは? もし夫婦関係がうまくいっていないのなら、うまくいくように努力したほうがいいのでは?
「ぼくは講演会で、夫婦が仲良くなる方法をお話することはありません。どうやって上手に距離を保つかということをしっかり話します。軽い『家庭内別居』のような状態のほうが、安全だと思っているのです。だいたい、オスとメスが40、50年も一緒にいる動物なんて、ヒトのほかにはいないんです。結婚はホルモンの作用で気がおかしくなってするもの、そう思ったほうがいい(笑)。人間の夫婦関係って、じつはかなり難しいことを継続しているんですよ。今まで一緒に暮らせていることについて、まずは相手に感謝すべきだと思います」

さらに、石蔵さんはこう言います。
「ある研究では、女性は1日に2万語ぐらい話さないと満足しないのに対し、男性は6000語ほどで十分なのだといいます。この差を埋めるのは難しいですが、今後も夫婦関係を維持したいなら努力もすべきでしょう。男性はたまの発言も“上から目線”で妻に言ってしまいがちです。仕事でのクセなのはわかりますが、家でもそれが出てしまう。男性は仕事と同じように、夫婦関係のマネジメント、メンテナンスをもっと上手に行うべきだと思います。『愛している』とまで言えれば理想的ですが(ウソでもいいのです)、せめて『ありがとう』や『ごめんなさい』は、こまめに伝えるようにしてほしいですね」


石蔵さん自身が、「夫婦関係」「家族関係」のライフシフトを実践中!

「我が家は子どもが3人いて、共働きだったから、子育て真っ最中の時期は夫婦のどちらかが何かしら作らざるを得ない。子どもたちが小さい頃に、焼きそば・チキンライス・オムライスを代わるがわる繰り返し作っていたら、自然と料理を覚えるようになりました。やるからには美味しくて手間のかからないものをと思っていろいろと頑張ってはいるのですが、いまだに妻からはなかなか認めてもらえない。男が料理をして食の自立を図ることが大切だと主張してきたぼくは、男性のための料理教室を開いて、もう10年以上になるのですが……」

大阪での取材時、奥さんの久美さんに石蔵さんとの夫婦関係についてお尋ねしてみると、
「夫に期待しないことが、いちばん大事ですね。子育ては、夫は協力したと思っているかもしれないけど、基本的にはほぼ自分ひとりでやっていたようなもの。男が育児や家事について語る場合の多くは、自分でやったことが100のうちの3くらいでも、30はやったと言うんじゃないですかね(笑)。いま、孫の面倒などを見てもらっていて、とても感謝はしていますけれど……」
と、かなり厳しいご意見(苦笑)。でも、石蔵さんが以前に私たち取材班に話していた次の言葉とも符合し、とても素敵な夫婦関係だとわかった瞬間でもありました。

「これまで大学教授をしていたのですが、この春に退職することにしました。というのも、長女に子どもが生まれ、孫が増殖してきた。さらに二人の娘も結婚して仕事も忙しく、妻の医院も忙しい。ぼくが若いときには、妻に3人の子どもの子育てを押し付けていたということもあって、罪ほろぼしの意味合いもあり、定年まではまだ4年もあったけれど、大学を辞めることにしたのです。大学の退職届には『孫の世話』と書きました」

これからの石蔵さんは、「孫育て」を手伝いながら、自分のクリニックで患者さんに接し、家庭菜園したり、テニスや釣りをしたりと、今までとはまた異なる忙しい毎日になりそうだ、とのこと。
まさに、ご自身で「夫婦関係」「家族関係」のライフ・シフトを実践中! 人生の後半を前向きに楽しむその姿勢に、大きな刺激を受けた私たち取材班でした。


*文/編集部(2017年11月)


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