百寿者、超百寿者の研究者である慶應大学の新井康通さんに学ぶ②
慶応義塾大学医学部百寿総合研究センター総合診療科講師 新井康通さん
[プロフィール]
日本老年医学会老年病専門医。専門は百寿者、105歳以上の「超百寿者」の疫学調査・研究、超高齢者(85歳以上)の生活習慣調査など。留学していたニューカッスル大学をはじめ、ボストン大学、シンガポール国立大学などとの国際共同研究も精力的に進めている。
中年期に太っていることと、高齢期に太っていることは、意味が違う
「人生100年時代」における“病気の不安”を解決するアドバイスを求めて、私たち取材班がアポイントを入れたのは、NHKスペシャル「あなたもなれる“健康長寿” 徹底解明
100歳の世界」にも出演されていた、百寿総合研究センターの新井康通さん。
じつは、雑誌の記事(→新井康通さんに学ぶ①)では丁寧に書き込めなかったのですが、新井さんから注意されたことがあります。
「ハワイの日系人男性を対象としたコホート研究『ホノルルハートプログラム』では、多くの興味深い調査結果が出ています。そのうちのひとつに、75歳の人が90歳まで元気で生きるためには何がリスクになるかというと、肥満よりもやせていることのほうがリスクになる、という報告があります。でもそれで、50代・60代の人が『いま太っているけれど、やせていることがそのうちリスクになるのだから、太ったままでいい』などと思ってしまうのは間違いです」
中年期に太っていることと、高齢期に太っていることは、意味が違う。新井さんは、私たち取材班にくり返し説明してくれました。
「もしかしたら、心血管系疾患、動脈硬化などのリスクだけを考えたら、ずっとやせていたほうがよいのかもしれません。でも、70歳以降になったら、それ以外のリスク、骨や筋肉の衰えから来るリスクが大きくなってくる。50代・60代で太っている人がメタボ対策は必要ないと思ってしまったら、70歳になる前にそのせいで脳梗塞になってしまうこともあり得ます」
70代くらいからは低栄養や筋力低下、閉じこもりなどにより、心身が衰弱するという「中年期とは別のリスク」が発生することを、改めて強調してお伝えしておきたいと思います。
中高年のメタボは、人生の後半で響いてくる
「人生後半になると、それまでの中年期のメタボが健康状態に響いてくるのは確かです。70代後半になると、徐々にメタボの因子は減ってくるけど、次は新しい健康問題が出てくる。それが、最近、いろんなところで言われ始めている『フレイル』なのです」中年期のリスクの数――「肥満」「高血圧」「高中性脂肪」「高血糖」などは、できるかぎり減らしたほうが、やはり健康寿命を延ばすことにつながるようです。
それにしても、100歳まで元気で生きている人って、どんなタイプの人なのでしょうか? 百寿者の研究者である新井さんに、改めて取材の最後に尋ねてみました。
「健康オタクみたいな人は、あまりいないようですね。サプリメントをいっぱい飲んでいるという人も、聞いたことがない。ほとんどの人たちは、こんなに長生きするとは思わなかったという人たちで、100歳まで生きることを目標としていたような人はいないようです。でも、あとどれくらい生きたいですか?と尋ねると、もう少し生きたいという人が多い。百寿者のすべてではないけど、自然に年をとる、じょうずに年をとる、毎日毎日きちんと生きてきた結果がここにある、という感じの人が多いです」
この取材を始める前、じつは「100歳まで生きる」ということにあまり肯定的なイメージを持てなかった私たち取材班ですが、百寿者研究者の新井さんのお話を伺い、心の中の何かが少し変わったような気がしました。
*文/編集部(2017年11月)