いつまでも健康でいたいけど……「病気の不安」解決策

百寿者、超百寿者の研究者である慶應大学の新井康通さんに学ぶ①

日本人の平均寿命は伸び続け、100歳以上の高齢者は、2050年に約70万人になるといわれています。そんな「人生100年時代」で、さまざまな「老後不安」を抱えている人も多いのではないでしょうか。健康長寿のシンボルともいえる、100歳以上の高齢者・百寿者の研究者である新井康通さんに、「病気の不安」を解決する方法を取材しました。

慶応義塾大学医学部百寿総合研究センター総合診療科講師 新井康通さん

[プロフィール]
日本老年医学会老年病専門医。専門は百寿者、105歳以上の「超百寿者」の疫学調査・研究、超高齢者(85歳以上)の生活習慣調査など。留学していたニューカッスル大学をはじめ、ボストン大学、シンガポール国立大学などとの国際共同研究も精力的に進めている。


百寿者調査でわかった
健康長寿のカギとは?

100歳を越える高齢者「百寿者」は、1995年時点では約6000人でしたが、2016年にはなんと約6万5000人に。この20年間で10倍も増加したことになります。まさに「人生100年時代」。これまでよりも、高齢者として生きる期間が、圧倒的に長い時代を迎えているのです。

長くなった人生を、健康に過ごすには、どうすればよいのか。この課題に取り組んでいるのが、百寿総合研究センターの新井康通さんです。

「我々の研究チームは、20年以上にわたり、百寿者の方の健康状態や生活環境などについて大規模調査を続けてきました。最大の目的は、日本人の健康寿命を延ばすことです。つまり、単に長生きするのではなく、多くの人が長く自立して長寿を享受するためのカギを探っているのです」

百寿者研究では、全国で百寿者の訪問調査を実施。写真は百寿者の方と新井さん(右端)ら研究スタッフ。


これまでの研究では、どんなことがわかっているのでしょうか。

「百寿者でも97%の方に持病や病歴、骨折の経験などがあり、決して無病で過ごしてきたわけではないことがわかりました。長寿には遺伝も影響しますが、これまでの研究で、健康寿命には生活環境の影響がより大きいことがわかっています。百寿者は、意識するとしないとにかかわらず、なんらかの形で病気に対応して、重症化を回避してきたのだといえます」

百寿者の方は“病気とのつきあい方の達人”でもあるようです。

「そのなかで注目すべき点は、糖尿病の方が少ないこと。70歳の糖尿病罹り患かん率は15%ほどですが、百寿者では6%ほどと、とても少なかった。また、喫煙者も少ない傾向が。これは世界共通の現象で、高血糖と喫煙は、避けたほうがよいのは間違いないようですね」

長い高齢期を見据え
50代から意識をシフト

さらに新井さんが指摘するのは、中年期の過ごし方が、高齢期に大きく影響するという事実です。

「ハワイの日系人男性を対象にした研究では、中年期の健康状態と、その人たちが高齢になった時点の健康状態を追跡調査しています。その結果、中年期のリスク因子が多いほど、高齢期に健康な生活を損なう確率が高いことがわかったのです」(右のグラフ参照)

この調査でいうリスク因子とは、肥満、高血圧、高中性脂肪、高血糖、喫煙歴、握力の低さ、過剰な飲酒など。50〜60代は、生活習慣病や突然死の予防のためだけでなく、いずれ訪れる高齢期のためにも、健康意識を徐々にシフトする必要がありそうです。


高血糖や肥満が危険因子と聞くと、「結局、メタボ対策か」と思われるかもしれません。でも、もうひとつ、第2のシフトポイントがあると新井さんはいいます。

「メタボ改善が大事なのは、主に脳卒中や心筋梗塞など血管系の病気を防ぐためです。ところが70代くらいからは、別のリスクが増えてきます。それは低栄養や筋力低下、閉じこもりなどにより、心身が衰弱すること。なぜなら、この年代になると、どうしても運動量が落ち、それ以上に食事量も減って筋肉が減少するからです。このような老化は“フレイル(虚弱)”と呼ばれ、要介護の入り口になってしまいます」

つまり、“やせる”ことよりも、“やせすぎない”ための努力が必要になる時期が来るというのです。

「一般的な目安としては、65歳まではメタボ予防、65~75歳までは個人差がある時期ですが、75歳ぐらいからはフレイル予防を意識して、たんぱく質など必要な栄養をしっかりとったり、運動量を減らさないよう努力しましょう」


*雑誌「NHKガッテン!」臨時増刊号(2017年11月発行)より


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