定年時の預金が150万円しかなかった元会社員・大江英樹さんに学ぶ②
元会社員の経済コラムニスト 大江英樹さん(65歳)
[プロフィール]
証券会社退職後、資産運用やシニアのライフプランに関する執筆や講演で活躍。サラリーマンを退職した後の方がむしろ活発に活動している“リアル定年男子”。著書に『老後不安がなくなる定年男子の流儀』(ビジネス社)など多数。
年金「受給繰り下げ」の裏ワザで、年8%の運用実績に!
私たち取材班が雑誌の企画(→大江英樹さんに学ぶ①)のために大江英樹さんを取材したのは、とある平日の午後。「ご都合のよい場所に伺います」と取材依頼をしたにもかかわらず、大江さんは「近くに寄るついでがありますので」と、弊社の会議室にやって来ました。
このあたりのフットワークの軽やかさと偉ぶらない雰囲気は、ご本人がよくおっしゃっている「まず、自分から動く」という『ギブ・ファースト』の精神なのでしょう。定年後に新しい仕事を始める場合の極意を、私たち取材班は、まずは大江さんとの最初の出会いの段階から、学ばせていただくことになりました。
雑誌の記事では、「定年後のお金の不安を減らすために、まずは退職前後の3年間、家計簿をつけること」「老後不安解決の最善策は、働き続けること」「定年後に新しく仕事を始めるための心構え」などを中心に紹介しましたが、じつは取材では、ほかにも多くのことを大江さんから教えていただいていました。
そのひとつが、年金受給の裏ワザ。
「65歳からもらえる年金をすぐに受け取らず、70歳からの受給に繰り下げると、42%増しで受け取ることが出来るって知っていましたか?」
大江さんにいきなり質問され、うろたえる私たち取材班。
「つまり、65歳からの5年間、働いたり、預金を取り崩したりして暮らしていければ、なんと年8%の利率で運用できる計算になります。ヘタに投資に手を出したりするより、よほど安心・安全ですよね。私はいま65歳なので年金をもらえる年齢ですが、あえてまだ受け取っていません」
たしかに今の時代、投資のプロだって年に8%の利率ではなかなか運用できないはず。年金受給を繰り下げるメリットは大きいようです。
「ただしその場合、81歳以上までは生きないと、65歳から年金を受け取り続けた場合に比べて、受け取る総額は少なくなってしまうので要注意。健康はやっぱり大事ですね」
う〜む、悩ましいところです……。
でも、自分がいつ死ぬかなんて、わかるわけありません。「人生100年時代」といわれる今、65歳の段階でよほど体にガタが来ているわけでなければ、81歳くらいまで生きることは十分に考えられそうです。
となると、大江さんにならって、年をとってからも何かしら仕事を続け、年金受給をすぐに申請しないほうがよいのでしょうか……。
「不安だ」と言いながら、じつは多くの人は関心がない!?
「あまり知られていませんが、繰り下げ受給をしている人が、病気などで突然お金が必要になった場合、申請をすれば70歳になる前でも、受け取ることができます。その場合、以後の受け取り金額を増額して受け取るか、或いは増額はしない代わりにそれまで受け取っていない分をまとめて受け取るかを選択することもできます。公的年金って意外と融通がきくんです」
へ〜、そうだったのかと驚く、私たち。年金制度について、あまりにも不勉強であることをこの取材で実感し、もっとちゃんと調べておかないといけないと、おおいに反省していると、大江さんはこう指摘しました。
「老後破産など、お金についての老後不安の正体は、『みんな、不安はあるけれど、じつは本気の関心はない』ということ。私のセミナーに参加された中高年の方に、今後の家計に不安を感じますか?と尋ねると、ひとり残らず手を挙げる。でも、年金は具体的にいくらもらえるかご存じですか?と尋ねると、知らない。知らないのになぜ不安なのですか?老後の生活費はシミュレーションしていますよね?と質問を重ねると、わからない……と」
取材の場ではごまかしていましたが、いま正直に告白します。
私たち取材班も、年金についてまったくよくわかっておらず、「老後のお金の不安」についての取材を大江さんにお願いしていました。大江さん、ごめんなさい!
「本当に不安だったら、きっとアクションを起こしているはず。みんな心のどこかでは『漠然と不安だけど自分だけは大丈夫』と思っているわけです。じつは、本当の関心はないのです。しっかり関心をもって数字を把握すれば、不安は消えるのです」
わかろうとしないことが一番の問題。「漠然と不安な日々を送るより、まずは現在と将来の収入と支出を把握・予測することが大事」ということに尽きるようです。
ところで、ここまでの話は、まだ年金をもらい始めていない人に役立つ話。すでに年金をもらっていて、かつ「お金の不安」を感じている人に役立つ話はないのでしょうか?
「支出を見直す。また、働いていなければ、一念発起して働き始めるか、ということですよね。まずは支出の話。私は定年を機に、年賀状をやめました。細かい話ですが、携帯電話のプランも変えました。また、保険はきちんと見直したほうがいいと思います。ちなみに、ちまちました節約をするより、保険を1本解約したほうが、はるかに効果的です。私は定年よりはるか前、42歳のときに、自動車保険と火災保険を除いてすべて解約しましたが、それは大正解だったと思っています」
定年後の働き方について、大江さんが最も強調して教えてくれたのは、「自分に何ができるかは、じつは他人が発見してくれる」ということ。
よく、定年前のサラリーマンを対象にしたセミナーなどで「自分の能力の棚卸しをしてみましょう」などと講師は言いますが、大江さんは「自分の能力なんて、じつは自分ひとりで考えたって、よくわかりませんよ」と言います。
「私も、定年後に自分自身でやりたいと思っていた仕事の分野があるのですが、結局はその分野の仕事はまったく声がかからず、ダメでした。でも、ひょんなことから、こんな仕事をやってみないか?とお誘いがあって、そこから仕事が広がったことがあります。自分でできると思っていることにこだわるのではなく、とにかくさまざまなところにアンテナをはって、『何か、私にできることはないですかね』というスタンスでいることが大事だと思います」
年をとって長年やってきた仕事を辞め、新たな仕事を見つけようとする場合には、まずはいろんな所に顔を出し、「自分にできることは何かないかなあ」と考えることが、大江さんのお勧めの方法とのこと。
最後に大江さんはこう話してくれました。
「やっぱり年をとっていくと、昔と同じようなテンションで仕事を続けるのは、体力的にもきついし、精神的にもよくない。働き続けるにしても、働きかた自体はよく考えたほうがいいと思っています。なお、年金は自分から申請しないと受け取ることが出来ません。65歳の誕生日前に年金事務所に行って、手続きをしましょう。年金を受け取る権利は5年で消滅するので、70歳までには請求してください」
ごく普通のサラリーマン生活から、定年・再雇用を経て新たに仕事を始め、いま講演や執筆活動などで大活躍している大江さん。取材前は、“特別な人”なのだろうと想像していた私たちでしたが、お会いしてみると、ご本人も言うように、たしかに“ごく普通の人”。ただ、さまざまな人やモノに対して、とても好奇心が旺盛なことは感じ取れました。
「人生100年時代」を楽しく生き抜いていくには、いつまでも好奇心を持ちつづけることが、何よりも大事なことなのかもしれません。
*文/編集部(2017年11月)